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コラム:コロナ対応に透ける日銀の思惑、脱「異次元緩和」へ着々=鈴木明彦氏 - ロイター (Reuters Japan)

[11日 東京] - 日銀は3月16日の金融政策決定会合以降、矢継ぎ早に金融緩和強化を打ち出している。それと同時に、金融緩和の大義名分をデフレ脱却から新型コロナウイルス対応に置き換えている。

 日銀は3月16日の金融政策決定会合以降、矢継ぎ早に金融緩和強化を打ち出している。それと同時に、金融緩和の大義名分をデフレ脱却から新型コロナウイルス対応に置き換えている。写真は日銀本店前。5月22日撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

決定会合後の声明文でも、「物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するため」といった文言が落ち、代わりに「新型コロナウイルス感染症の影響を注視し」といった表現が入るようになった。

<日銀が思い描くシナリオ>

3月以降の金融緩和強化がデフレ脱却のためだったなら、日銀は躊躇(ちゅうちょ)しただろう。半永久的に達成できそうもない2%の物価安定の目標に縛られたら、金融政策正常化の出口はますます遠ざかるからだ。

しかし、新型コロナの感染拡大による社会不安や金融不安を回避するという理由であれば、潤沢な資金供給や資金繰り支援のための金融緩和を思い切ってできる。金融緩和の大義名分が立つと同時に、感染が終息して経済が落ち着きを取り戻したときに終了できるからだ。

新型コロナとの戦いが終わり、平常に戻れば、デフレとの戦いが大事だという圧力が再び勢いを増してくるかもしれない。しかし、今や物価安定の目標と結びつけられた縛りは、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロールの継続と、マネタリーベースの拡大方針だけだ。

新型コロナ対応を名目に思い切った金融緩和を打ち出すと同時に、物価目標の縛りを弱めることで、コロナ後は金融政策の自由度が高まっているというのが、日銀が思い描くシナリオだろう。もちろん、このときに2%まではいかないまでも物価が上昇していると日銀にとってさらに好都合だ。

<新たなマイナス金利政策>

日銀が新型コロナ対応の金融緩和に積極的になれる別の理由として、金融緩和の中身が質的金融緩和を中心とした潤沢な資金供給、具体的には総枠約75兆円の支援特別プログラムであり、マイナス金利の深掘りに踏み切る必要がないことが挙げられる。

しかし、日銀はマイナス金利の深掘りを回避する一方で、新型コロナ対応として新たなマイナス金利政策を導入したのではないだろうか。

支援特別プログラムは、1)CP(コマーシャル・ペーパー)・社債等の買い入れ(約20兆円)、2)新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ(約25兆円)、3)緊急経済対策における無利子・無担保融資を中心とする適格融資を対象とした新たな資金供給(約30兆円)──で構成されており、このうち2番目と3番目については、利用残高に相当する日銀当座預金へのプラス0.1%の付利がセットになっている。

つまり、支援特別プログラムを使って融資をする金融機関は、そのための資金を日銀からゼロコストで借りられるだけではなく、プラス0.1%の利息まで受け取れる。結果として金融機関はマイナス金利で資金を調達できるようになる。これは本当の意味でのマイナス金利政策による強力な金融緩和と言えるものだ。

<従来型のマイナス金利政策は骨抜きに>

実際、マイナス金利が適用される政策金利残高を抱える金融機関にとって、このプログラムを活用するメリットはある。少なくとも、デフレ脱却を名目に円安・株高効果を狙って演出したこれまでの見せかけのマイナス金利政策よりも金融緩和効果が期待できそうだ。

同時に、コロナ後を見据えて従来型のマイナス金利政策の形骸化が進む。

2016年1月にマイナス金利政策が導入されたときに、プラス金利が適用される残高は基礎残高として、15年年間の平均残高となる210兆円程度で固定された。ここが増えてしまうとマイナス金利政策と矛盾するからだ。

しかし、すでに述べたように、最大約55兆円の規模で新たに日銀当座預金残高にプラス0.1%の付利がなされることになった。マイナス金利が適用される日銀当座預金の政策金利残高は20兆円程度にとどまっている。従来型のマイナス金利政策は否定されたと言ってもよいだろう。

また、プラス0.1%の付利に加えて、利用残高の2倍に相当する金額を金利ゼロ%のマクロ加算残高に加算することになっている。結果として金融機関はマイナス金利が適用される政策金利残高を減らすことができる。

新しいマイナス金利政策は、従来型のマイナス金利政策よりも緩和効果があり、異次元の金融政策と言ってもよい。しかし、新型コロナ対応で導入された期間限定の対応であり、コロナ危機が終息すれば終了する。

その時には、従来型のマイナス金利政策の形骸化が進んでいて、見せかけのマイナス金利を演出する以外には実質的な意味を持たなくなるだろう。これが日銀の描くシナリオではないか。

<国債購入額を巡る日銀のレトリック>

4月27日の金融政策決定会合では、政府の緊急経済対策により国債発行が増加することの影響も踏まえ、積極的な買い入れを行うという方針が示された。また、長期国債の買い入れ方針に関して、「保有残高の増加額年間約80兆円」というめどが外れ、代わりに「上限を設けず必要な金額」とされた。

これを受けて、中央銀行が財政赤字を肩代わりする財政ファイナンスに日銀が踏み出したのではないかとの懸念も出ている。しかし、10年国債金利がゼロ%程度で推移するように買い入れを行うというイールドカーブ・コントロールの基本原則は崩していない。

たしかに国債増発に伴って日銀の国債買い入れ額が増えていくことは考えられるが、10年金利のマイナス幅が拡大するような無茶な買い入れは考えていないようだ。

80兆円のめどを外したと言っても、イールドカーブ・コントロールを導入した時点で、80兆円は目標ではなくなっており、日銀はこのめどを守る気はなかったはずだ。そもそも、80兆円が上限だったなどと日銀は一言も言っていない。

「80兆円をめどとしつつ」という文言を外す一方で、「上限を設けずに」という言葉を加えることで、読む人は「80兆円という上限が外れた」と勘違いしてしまう。かなり高度なテクニックだ。

<国債保有残高は減少も>

80兆円のめどを外した理由は他にある。日銀が大量の国債買い入れを続けてきた結果、償還を迎える国債が増加して保有残高が減少する月も増えてきた。このままだと前年比で減少基調に入ることも想定できる状況になってきた。

日銀は80兆円というめどではなく、保有残高の前年比増加額というやっかいな指標そのものを消し去りたかったのではないか。日銀が「上限を設けず」と強い言葉を使っているのは長期国債のグロスの買い入れ額についてだ。

これからは、このグロスの金額で積極的な買い入れをアピールするつもりだろう。つまり、積極的に買い入れても償還額が増加しているため、結果として日銀保有の長期国債残高が減少することもありうる。コロナ後を見据えて量の縛りを外したい日銀にとって必要な措置であった。

新型コロナの感染拡大による世界的な経済活動の停止という危機に直面して、コロナ対応の金融緩和を積極的に推し進める日銀だが、その背後でこの危機を金融政策正常化のチャンスに変えるために、コロナ後を視野に入れてさまざまな手を打ってきていると言えそうだ。

(本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています)

鈴木明彦氏

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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編集:橋本浩

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