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新型コロナ:米「見えない失業」増大 雇用改善、サプライズに死角 - 日本経済新聞

テキサス州のレストランでは「求人中」の看板が見えた=AP

テキサス州のレストランでは「求人中」の看板が見えた=AP

【ワシントン=河浪武史】米失業率は5月に13.3%へと改善し、新型コロナウイルスによる雇用悪化に歯止めがかかりつつある。経済活動の再開で飲食店などが従業員の再雇用を始めたためだ。ただ、休職者ら「見えない失業」が増えており、子供ら家族の世話のために復職できない女性らも多い。労働参加率は60%と半世紀ぶりに近い低さに落ち込み、雇用環境に残る傷痕は深い。

「雇用が戻ってきた。世界のどこよりも素晴らしい経済状態へと復元するだろう」。トランプ大統領は予想外の雇用統計の好転を受けて、急きょ上機嫌で記者会見した。市場は失業率が4月の14.7%から大恐慌時並みとなる20%前後へさらに悪化すると予想していた。金融市場もホワイトハウスもともに「サプライズ」となった。

ただ、オバマ前政権で米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたジェイソン・ファーマン氏は「失業率は見かけの数字よりも悪い」と指摘する。1つは「理由不明の休職者」の存在だ。

通常は統計のノイズにすぎないが、今回は5月だけで490万人が同分類に加算された。米労働省は「これを失業や一時解雇と計算すれば、失業率は3%上振れする」と明かす。労働省は家計への調査を元に就業状況を算出する。調査員には新型コロナによる離職者を「失業者」と分類するよう指示したが、あいまいな回答が多発したという。

再就職をあきらめて労働市場から退出した人も多い。5月の労働力人口は1億5822万人と、新型コロナが深刻化する前の3月と比べ3%近くも減った。こうした非労働力人口は失業率には加算されない。労働参加率も4月に60.2%、5月も60.8%と落ち込み、女性の労働参加が進む前の1970年前後の水準まで低下した。

もちろん雇用情勢は想定よりも早く改善に向かいつつある。ファーマン氏は「5月の実質的な失業率は17.1%」と指摘するが、4月も「理由不明の休職者」810万人を加えると、失業率は19%台だ。大恐慌時並みの厳しい水準とはいえ、前月からは2ポイント改善した。重要統計の好転で企業や家計の心理が改善すれば、実体経済そのものを後押しする好循環につながる。

焦点は改善のスピードだ。5月は就業者数が250万人増えた。1939年の統計開始以来、最大の伸びとなったが、それでも4月の落ち込み(2070万人減)の1割強しか取り戻せない。4月に544万人も就業者が減った飲食業は、5月に137万人増と持ち直したが、それでも減少分の25%にすぎない。航空業や宿泊業は5月も就業者数がマイナスだった。

雇用悪化に歯止めがかかりつつあるのは、失業者の多くが半年程度での復職を想定した「一時的な解雇」だったためだ。4月は失業者(2300万人)のうち78%が一時解雇だった。企業は労働者を一時的に手放してコストを減らし、倒産を避けている。経済活動の再開が進めば、職場復帰も加速する可能性がある。

ただ、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は「ワクチンなどで生活者が安全を確信できなければ、経済は復元しない」と警戒を緩めていない。全米の飲食店の客足は6月初めでも1年前の2割に満たず、シカゴ大の調査では、一時解雇の42%は「恒久解雇」になる可能性があるという。

白人警官による黒人暴行死をきっかけとした全米の抗議デモも、雇用回復の足かせになる。5月の失業率を人種別にみると、白人は12.4%と1.8ポイント改善したが、黒人は逆に0.1ポイント悪化して16.8%となった。経済再生の過程で、米国を悩ます所得格差をさらに広げるリスクがある。

新型肺炎

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