[東京 12日 ロイター] - 今年の春闘は、かつての一律賃上げ交渉に替わり、成果を反映した賃金体系への移行をより強く反映するものとなりそうだ。これまでも一部に成果型賃金を取り入れてきた企業は多いが、今年は春闘の先頭を走るトヨタ労組が賃上げ率に差が出る方法を提案。ひと握りの優秀な人材や人口減の著しい若手への配分が厚くなるなかで、中高年にとっては厳しい状況となりそうだ。
<トヨタ労組も評価見合いの賃上げ容認>
「かなり賃金が上昇する人、まったく上がらない人が出てくるかもしれない」ー春闘での「パターンセッター」であるトヨタ自動車(7203.T)労組の古川貴之・企画広報局長は、5段階評価に応じた賃上げ方針について、こう述べる。パフォーマンスにより、賃上げに差が出ることを容認する方針だ。
トヨタの経営側は18年から一律のベア額を公表せず、事実上能力主義の賃金体系への移行を進めてきた。古川局長は自動車業界を取り巻く厳しい環境を踏まえ、まずは会社を盛り立てていく必要性を強調する。
今年提案した賃上げ額は、月1万0100円、昨年の要求額1万2000円を下回る水準に抑えた。社員間で賃上げ率に差が出ることに加えて、厳しい業績環境もあって、全体として賃金総額は抑制される可能性がある。
<先陣きった富士通、成果型の副作用克服へ>
もっとも成果型導入は今に始まった話ではない。90年代以降、いったんは成果型賃金を導入する企業が相次いだこともある。しかし、日本総研の山田久・副理事長は「評価の低い人のモチベーションが下がるなど、うまくいかないケースがあり、いったん下火となっていた」と指摘する。
93年にいち早く成果型賃金制度を導入した富士通(6702.T)では、評価基準が透明化されるメリットもあり、当初は歓迎されたものの、従業員が個人主義に走りがちでチームワーク機能が低下する反省もあったという。その後制度を徐々に修正。チーム貢献度目標も取り入れた。
現在は、評価を反映させるかたちで年齢に関係なく昇進・登用が行われており、管理職、非管理職ともに、所定内給与は職能等級に応じて区分・序列化される一方で、賞与には成果を反映。所定内給与の比率が7割、賞与が3割のバランスとなっており、賞与については社員間でおよそ2倍程度の差がついている。
さらに、一般社員の平均的な年収798万円対し、人工知能やセキュリティ技術など先端スキルを持つ人材には、上限3千万円程度までの報酬を支払うケースもある。
総務・人事本部シニアディレクターの森川学氏は「若い人にとってもきちんと成果が見えるようにすることは当然のことだ。ただ、モチベーションが下がる場合もあるなど副作用もあり、克服へ試行錯誤しながら、成果型賃金を機能させていく必要がある」と語る。
<中高年の賃金抑制へ>
すでに多くの日本企業では役割に対する成果を反映させた賃金制度(職務給)の導入が拡大している。日本生産性本部の調査によると、18年時点で102社の回答企業のうち、管理職では7割以上、非管理職でも5割以上が導入しており、年齢給に近い運用の「職能給」の適用企業は減ってきているとの調査結果がある。
パソナの中尾慎太郎社長・COOは、転職で給与が上がる人と、人工知能(AI)普及で仕事がなくなる人なども含め「企業内でも格差は広がっている」という。
中でも「若手の労働力人口が減少する中で、人材確保のためには原資を若手に集中せざるを得ない状況。このため、賃金カーブはフラット化が避けられず、中高年の給与が一段と上がりにくくなっている」と指摘する。
2010年時点の男性社員を対象とした調査では、20-24歳の所定内賃金を100として比較した50-54歳の水準は2.22倍だったが、この差は徐々に低下して18年には2.00倍となっている(厚生労働省の賃金構造基本調査)。
厚生労働省でも、17年から働き方改革の一環として、人事評価を反映させた成果型賃金を推奨する助成金制度を創設、年功序列型賃金制度からの脱皮を図る企業を支援している。18年には1590件の支給を実施。ただ一人でも賃金が減少すれば、助成金は受けられない仕組みだ。
経済官庁幹部は「成果型賃金導入が広がれば格差拡大の方向は避けられない」としつつ、「今は人手不足に助けられて、景気が悪くとも賃金は誰もが上がる局面だ」とみている。ただ一方で専門家からは、IT化の流れで労働分配率は世界的に低下傾向にあることが指摘されており、「人手不足に助けられて上昇が続く時給も、そのうち頭打ちになる」(山田氏)との指摘がある。評価が下がれば賃金も下がるという時代がやってくる可能性が高まっている。
編集:石田仁志 グラフ作成:照井裕子
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February 12, 2020 at 06:19AM
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