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自動車業界、コロナ禍で続く「派遣切り」の実態 - auone.jp

自動車産業は裾野が広いだけにコロナ危機が長期化すれば雇用への影響も甚大だ(記者撮影)

新型コロナウィルスによる世界的な需要減少に苦しむ自動車産業。国内生産にも3月から影響が及び、6月もほとんどの乗用車メーカーが輸出車を中心とした生産調整を余儀なくされている。調査会社のIHSマークイットは2020年の国内生産台数が前年比20%減の730万台にまで落ち込むと予測する。

自動車は裾野が広く、日本経済の屋台骨を支える産業でもある。国内で完成車や部品の製造に携わる従業員は約90万人。鉄やプラスチックなどの関連素材を含めると就業者数は約140万人に上る。国内の生産台数が2割も縮小すれば、雇用への影響も避けられない。

日本の自動車業界にはリーマンショック時の「派遣切り」で批判を受けた苦い記憶がある。日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)は、「工場が稼働できないからといってすぐに『派遣切り』などを行うとコロナ収束後の復活にも時間がかかる。ぜひとも雇用は守っていきたい」と訴える。

自動車メーカーは「雇用維持」の方針

トヨタ自動車は国内15工場で6月の毎週金曜日を非稼働とし、愛知県の堤工場など7工場の計10ラインではさらに2〜7日間稼働を停止。田原工場(愛知県)など3工場の計5ラインは通常は昼夜二勤制だが、最長で9月まで夜勤を取りやめる。昨年の国内生産実績341万台に対し、4〜6月の減産規模だけで25万台を超える。

トヨタの豊田章男社長は、コロナ危機下でも雇用の維持や取引先の支援を経営の中軸に据える(写真は5月の決算説明会時のもの、写真:トヨタ自動車)

それでもトヨタは非正規を含めて雇用を維持する方針だ。非正規社員のうち、国内の工場で働く直接雇用の期間従業員(期間工)は約2400人(4月時点)。2月上旬から期間従業員の新規募集を停止したが、在籍者については、本人から契約更新の希望があれば応じているという。

一方、間接雇用の派遣社員は生産現場で約800人が在籍(5月時点)。生産調整で休業となっている派遣社員に対しては、6割以上の賃金を補償する休業手当の原資を派遣会社に支払ったうえで、「派遣会社から契約更新の希望があればすべて応じている」(トヨタ広報)とする。

国内生産の8割超を輸出するマツダは、欧米などでの販売の落ち込みを受け、国内全工場で3月下旬から生産調整に入った。6月は昼勤のみの稼働となっている。日本、タイ、メキシコの3拠点における4〜6月の生産台数は8.4万台と昨年同時期の実績(約31万台)に比べ7割強減り、減産規模はすでにリーマンショック時以上だ。

マツダの4~6月の国内生産台数は6万2000台。生産調整により前年同期から75%も減少した(記者撮影)

マツダは休業となる夜勤の従業員には、雇用調整助成金を活用し賃金額の90%相当を支払っている。製造現場に派遣社員はおらず、非正規では期間社員のみが約1790人在籍。トヨタと同様、「非正規を含め雇用は維持する」(広報)方針だ。

ほかの自動車メーカーも雇用維持に重きを置く。SUBARU(スバル)は国内の生産拠点である群馬製作所の生産要員・約1万人のうち、期間従業員が2500人弱、派遣社員が1000人程度と非正規率が3割を超える。「自己都合による退職は一定数あるが、法律上更新可能な契約については更新している」(広報)という。

体力ない下請け、背に腹変えられず

しかし、体力の限られる下請けは事情が異なる。

トヨタグループのある1次下請け(愛知県)では、製造現場の約2割を非正規の従業員が占める。このうち、間接雇用の派遣社員については、4月以降は契約更新をしていない。同社社長は「トヨタからは『雇用維持に最大限の配慮を』と言われているが、5~6月は仕事量が半減しており、少しでも変動費を圧縮したい」と本音を口にする。

マツダのある2次下請けメーカー(広島県)は、3月末に生産現場で働く従業員の15%に当たる派遣社員約10人の契約を打ち切った。「4~5月の仕事が5割以上も減る事態を前に苦渋の決断だった。仕事量が回復しさえすれば、同じ人に戻ってきてもらいたい」と社長は話す。

中国地方にある人材派遣会社では、2019年秋時点で約130人いた自動車関連の下請け企業への派遣人数が20人を切るまでに減った。同社の取引先はマツダや、もともと販売不振が続いていた日産自動車の下請けが多い。「減産が本格化した4月以降、派遣契約の解除や更新を見送る企業が相次いだ。こんな環境なので、今は代わりの派遣先もない」(同社社長)。

新型コロナ発の自動車不況を受け、体力の限られる下請け企業で相次ぐ派遣切り。真っ先にそのしわ寄せを受けているのが、外国人労働者だ。

ある30代後半のネパール人男性は、群馬県内にあるスバルの1次下請けメーカーで事務職として働いていたが、4月末に派遣切りに遭った。スバルが群馬製作所の稼働を一時停止した4月は、給料の6割相当の休業手当が出たという。しかし、「仕事がないからと言われて、製造系も事務系も派遣は4月末でみんなクビにされた」(男性)。

男性は失業保険を申請したものの、給付は早くて6月末となるため、太田市の支援制度で借りた約20万円でしのいでいる。3人の子どもがおり、すぐにでも仕事を見つけたいが、ビザの就労条件から事務職でしか働くことができず、言葉の壁もあって求職活動は進んでいない。

そもそも派遣社員として働いていたのも、日本語が十分にできず、求職活動のハードルが高いからだという。「仕事がなくなって今は大変。スバルの生産が回復すれば、新しい仕事が見つかるかもしれない」と事態の好転を祈るばかりだ。

生産調整は徐々に解除だが……

春先から始まった日系自動車メーカーによる国内生産調整は、徐々に減産ペースが緩和されつつある。トヨタは7月も3工場6ラインで2~6日間の稼働停止を予定するなど生産調整自体は継続するが、6月の減産規模からは大幅に改善する。7月の生産台数は当初計画比1割減(6月は同4割減)を見込む。生産の回復を受け、7月から期間従業員の新規採用を一部で再開する。

マツダは7月中に国内全工場で昼夜勤務体制に戻す。6月の国内生産台数は前年同月実績の4割程度だったが、7月には8割にまで戻る見込み。スバルは6月22日から本来の昼夜勤2交代制に戻した。輸出比率が低いホンダは国内生産への影響が比較的に少なく、7月の生産調整は3工場を対象に稼働を1〜4日停止する程度だ。

主要輸出先のアメリカでの販売回復が遅れて7月も大規模な減産が続く日産を除けば、自動車メーカーの国内生産は徐々に改善方向に向かっている。下請けも6月途中から仕事量が徐々に増え始めた。

この数年、国内の製造業は深刻な人手不足に悩まされてきた。もちろん、自動車産業も例外ではない。「今は耐え忍んで非正規従業員の雇用も維持しておかないと、仕事量が戻ってきた時に再び人手不足で困るのが目に見えている」(自動車メーカー幹部)。

ただし、6月下旬に入り、テキサスなどアメリカの複数の州で新規感染者数が過去最高を更新するなど、新型コロナの収束は依然として見えないままだ。主要輸出先の欧米などで感染が再拡大すれば、現地販売の回復が遅れ、国内工場も輸出車を中心に再び大規模な生産調整を余儀なくされる。先行きは決して楽観視できない状況で、雇用の維持に向け、自動車業界は難しい局面を迎えている。

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