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Snapdragon 865の詳細が判明。CPU/GPUアーキテクチャ強化で、新しいTensorアクセラレータも搭載 - PC Watch

Snapdragon 765(左)とSnapdragon 865(右)

 Qualcommは、米ハワイ州マウイ島において「Snapdragon Tech Summit 2019」を12月3日~5日(現地時間)の3日間にわたり開催している。このイベントは例年12月に開催されており、同社が翌年に投入する新しいハイエンドスマートフォン向けSoCを発表する場として活用されている。

 初日の12月3日には同社のプレミアムティアのスマートフォン向けSoCとして「Snapdragon 865」と、ミドルレンジ(同社の表現ではハイティア)向けの「Snapdragon 765/765G」が発表された。それぞれ2020年投入予定となっている。

 そして、2日目の12月4日の午前には、そのSnapdragon 865、Snapdragon 765/765Gの技術的な詳細が発表された。

プロセスルールはTSMCの7NP、CPUとGPUはアーキテクチャ的に強化

Qualcomm Technologies 製品管理担当上席副社長 キース・クレッシン氏

 「Snapdragon 865」は、昨年(2018年)のSnapdragon Tech Summitで発表されたSnapdragon 855の後継となる製品で、CPU/GPUといった汎用演算器の強化、AI機能の強化、そしてカメラ周りの強化という3つの特徴がある。

 Snapdragon 865は、前世代となるSnapdragon 855と同じTSMCの7nmプロセスルールを利用して製造されるが、855の製造に利用されてきたN7ノードよりもやや進んだノードとなるN7Pで製造される。

 Qualcomm Technologies 製品管理担当上席副社長 キース・クレッシン氏によれば、「N7とN7Pの差はほとんどなく、プロセスルールの進化による恩恵は一桁以下にとどまっている」という。

Snapdragon 865の概要
【表1】 Snapdragon 865/855/845/835の各スペック(Qualcomm社の資料などから筆者作成)
Snapdragon 865 Snapdragon 855 Snapdragon 850 Snapdragon 835
CPU Kryo 585 Kryo 485 Kryo 385 Kryo 280
ベースデザイン Cortex-A77(4コア)+Cortex-A55(4コア) Cortex-A76(4コア)+Cortex-A55(4コア) Cortex-A75(4コア)+Cortex-A55(4コア) Cortex-A73?(4コア)+Cortex-A53?(4コア)
L3キャッシュ 4MB 2MB 2MB ?
GPU Adreno 650 Adreno 640 Adreno 630 Adreno 540
メモリバス幅 (未公表) 4x16bit 4x16bit 4x16bit
種類/データレート LPDDR5-2,750MHz/LPDDR4x-2,133MHz LPDDR4x/2,133MHz LPDDR4x/1,866MHz LPDDR4x/1,866MHz
理論帯域幅 (未公表) 約34.1GB/秒 約29.9GB/秒 約29.9GB/秒
DSP Hexagon 698 Hexagon 690 Hexagon 685 Hexagon 682
ISP Spectra 480 Spectra 380 Spectra 280 Spectra 180
モデム X55(外付け、5G/7.5Gbps) X24(CAT20, 2Gbps) X20(CAT18, 1.2Gbps) X16(CAT16, 1Gbps)
製造プロセスルール 7nm(N7P) 7nm(N7) 10nm 10nm

 しかし、クレッシン氏によればCPUもGPUもいずれも性能は25%ほどアップしているという。それは、CPUも、GPUも、そしてSoC全体としても大きな性能強化が図られているからだ。

Kryo 585

 CPUは855のKryo 485からKryo 585へと強化されている。Kryo 585は、8コアCPUでいわゆるbig.LITTLEの仕組みに基づいてbig側が4コア、LITTLE側が4コアという構成になっており、とくにbig側の4コアはより高クロックで動作するプライムコアが1つとパフォーマンスコアが3つという構成だ。

 この構成そのものは、Kryo 485と同じ構成だが、Kryo 485ではbig側がArmのCortex-A76、LITTLE側がArmのCortex-A55ベースとなっていたのに対して、Kryo 585ではbig側がCortex-A77にアップグレードされている。

 また、CPU全体でシェアしているL3キャッシュが、Kryo 485では2MBだったのに対して、Kryo 585では4MBと倍増している。Cortex-A77ではCPUの内部アーキテクチャの改善によりIPCが改善しており、Kryo 585ではいずれのCPUコアもクロック周波数は前世代とほぼ同じだが、L3キャッシュの容量増によるレイテンシの改善なども相まって25%の性能向上を実現している。

Adreno 650

 GPUも855のAdreno 640からAdreno 650へと強化されている。同じ6xxという名前だが、内部のアーキテクチャに手が入っており、シェーダーユニットは50%ほど増やされているという。

 さらに、今回のSnapdragon 865では、メモリがLPDDR5に対応しており、データレートがLPDDR4xまでの2,133MHzから2,750MHzに引き上げられている。これにより帯域幅が増加しており、その点もGPU性能の強化に貢献している(なお、LPDDR4xにも対応しており、どちらを選ぶかはOEMメーカー次第)。

 GPUも前世代のSnapdragon 855に比べて、25%の性能向上/電力効率向上が確認できるとする。CPU/GPUともにプロセスルールの強化による恩恵はないが、アーキテクチャ側の強化で性能向上を実現している。

Hexagon 698には新しいTensorアクセラレータ、ISPも強化され2億画素の静止画を撮影可能に

AI周りの強化点

 Snapdragon 865の残り2つの特徴は、AI(深層学習のエッジ推論)の強化とカメラ周りの強化となる。いずれも現代のスマートフォンでは必須の機能と言え、Qualcommにかぎらず各社が注力しているポイントとなる。

第5世代のAIエンジンに進化
Hexagon 698

 QualcommはAI機能の実現を、他社が行なっているような専用のエッジ推論アクセラレータをSoCに統合するのではなく、DSPとなる「Hexagon」、CPU/GPUなどをソフトウェアによるランタイムで混合して利用できる仕組みを導入しており、SoCの世代が変わっても同じソフトウェアが活用できることが大きな特徴となっている。

世代毎のTOPS性能
競合とのエッジ推論の処理能力の比較
競合とのエッジ推論時の電力効率の比較

 今回Qualcommはそうした同社のAIプラットフォームのコアとなるDSPのHexagonを最新版「Hexagon 698」へと強化しており、第5世代のAIエンジンに進化したと説明している。

 Hexagon 698では、新しいTensorアクセラレータを内蔵しており、それによりニューラルネットワークの演算を行なうさいの性能が強化されている。Snapdragon 845では3TOPS、Snapdragon 855では7TOPSだった性能は、Snapdragon 865では15TOPSと倍増しており、大きな処理能力の強化が実現されている。

 記者会見では競合他社(A社、B社とだけ書かれていた)との比較データが示され、処理能力でも電力効率でも上回っているとアピールされた。

カメラ周りの強化点
Spectra 480
4ピクセルを1クロックサイクルで処理できるようになる

 また、ISP(Image Signal Processing)も強化されており、「Spectra 480」という新世代のISPに変更されている。

 Spectra 480の最大の特徴は、従来は1クロックでRGBそれぞれのうち1つを処理していたのに対して、1クロックで4つ処理することが可能になったこと。これにより2Gピクセル/秒という高い処理能力を実現しており、30fpsの8K動画、4K HDRの動画ないしは2億ピクセルの静止画をキャプチャする能力を備えていると説明している。

 さらに、新しいブロックとして「Sensing Hub」と呼ばれるブロックがダイに統合されており、低消費電力を維持したまま、特定のキーワードによりシステムをスリープ状態から復帰できるようになっている。これにより、スリープ状態にある場合でも、Amazon Alexaなどで「Alexa」と呼びかけたらスマートフォンがスリープ状態を解除して、音声による操作が可能になる。

 なお、モデムに関してはQualcommが提供しているマルチモード5Gモデム(4G以前との互換性も1チップで実現する5Gモデム)となるSnapdragon X55 5G modemと組み合わせて利用することが前提とされており、下り最大7.5Gbpsという通信速度を実現できる。

 Snapdragon 865を搭載したスマートフォンは、2020年の第1四半期に商用提供が開始される予定になっており、昨日の記事(Qualcomm、ハイエンドスマホの性能を20%押し上げる「Snapdragon 865」)でも説明したとおり、XiaomiやOPPOなどからリリースされる計画になっている。

5Gモデムをチップに内蔵しているSnapdragon 765/765G

 Snapdragon 765/765Gは、ミドルレンジスマートフォン向けの最新製品で、現行製品のSnapdragon 730/730Gの後継となる製品だ。末尾の“G”が示すのはゲーミングのGで、ゲーミングスマートフォン向けの製品となる。こちらも7nmプロセスルールで製造されるが、製造はSamsung Electronicsで行なわれ、EUVに対応した7nmプロセスルールが使われる。

 CPUはKryo 475、GPUはAdreno 620、DSPはHexagon 696、ISPはSpectra 355を搭載しているが、現時点ではその詳細は明らかにされていない。メモリはLPDDR4x-2,133MHzに対応する。

 大きな特徴は、5Gのモデムとなる「Snapdragon X52 5G modem」と呼ばれるマルチモード5Gのモデムが内蔵されている点で、下り最大3.5Gbpsを実現可能なことだ。

 Snapdragon X52 5G modemは、Snapdragon 765/765Gのダイに統合されており、OEMメーカーは別途モデムチップを用意する必要がなく、無線周りを自社の基板に実装するか、Qualcommが提供する無線周りを選択すること、低コストで5Gを実現できる。

 Snapdragon 765/765Gは2020年の第1四半期にOEMメーカーの製品に搭載されて商用出荷が開始される予定。ノキアブランドのスマートフォンを展開しているHMD Globalなどから登場する計画になっている。

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