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ボーイング “もん絶”する巨大企業【追記・再掲】 - NHK NEWS WEB

ボーイング “もん絶”する巨大企業【追記・再掲】

アメリカを代表する巨大企業が、あえいでいる。去年10月、そして3月と、主力の旅客機が2度の墜落事故を起こしたボーイングは、同型機の運航停止、そして生産見合わせが続き、ことしの業績さえ見通せない状況だ。対応が後手に回ったのではないのか。議会証言に立った経営トップは何を語ったのか。その議会証言を見た筆者は、ある光景を思い出す。(アメリカ総局記者 野口修司)

好調だったはずの業績が…

売り上げ1011億ドル(10兆9000億円)、純利益104億ドル(1兆1200億円)。去年のボーイングの通期決算は過去最高をたたき出した。

ことし1月の決算発表の際、最高経営責任者のマレンバーグCEOは、こうコメントしている。

マレンバーグCEO
「18年は売り上げ・利益とも過去最高を記録し、世界の航空宇宙産業におけるリーダーとしての地位をさらに高めることができた。全社にわたってすばらしい業績を達成し、お客様重視の姿勢を示すことができた」

この時は、すでにインドネシアで最初の墜落事故が起きた(18年10月29日)あとだ。最新鋭の旅客機「737MAX」の事故…。3月にはエチオピアで再び墜落し、死者は合わせて346人。

しかし、この1月の決算発表では「19年の業績はさらに最高を更新」と見通していた。

その決算発表から、9か月…。巨大産業は、いま、“もん絶”のさなかにある。なんと言っても、墜落事故を起こした「737MAX」が新型の主力旅客機であったことが大きかった。

インドネシアの事故調査結果(10月25日発表)では、機体の傾きを制御する『MCAS』と呼ばれるシステムの不具合が事故につながったのではと指摘された。

MCASをめぐっては、事故直後から、さまざま報道がなされていた。「パイロットが手動で機体の傾きを戻そうとしても、MCASが自動的に(勝手に)間違った傾きに戻していた」というものだ。要は、設計上の問題、ということになる(一部ではパイロットの経験不足という指摘も出ている)。

世界の航空会社が、「737MAX」の運航を中止。注文のキャンセルも続出。ほどなくボーイングは減産を余儀なくされ、それが今も続いている。

旅客機という「在庫」

ことし3月のエチオピアでの事故の直後、ボーイングは記者会見を開くとともに、737MAXの工場(西部ワシントン州レントン)を報道陣に公開した。運よく取材に加わることができたが、間近に見た737MAXは“小型”とはいえ、やはり大きく、そう簡単に「作り置き」はできない。在庫は抱えられないのだ。

工場内には、製造途中の機体が並び、尾翼には世界各国の航空会社のロゴがついていたが、「これが空を飛ぶまでには、まだ時間がかかるだろうな」と感じたのは、直前の記者会見が有意義ではなかったから、だけではない。

「過去最高更新」を見込んでいたことしの業績は、見る影もなく、航空各社への補償などで第2四半期(4~6月期)は、最終赤字に転落。株価は、2月末につけた439ドルから10月末には339ドルまで下落した。

金融各社が、「ボーイングの目標株価」を大幅に落としたこともあったが、後述する新たな疑惑に加え、私には「対応のまずさ、遅れ」があったように感じられてならない。

議会で“グリル”される

それから7か月。10月29日、30日の2日間、マレンバーグCEOは、アメリカ議会の上院・下院で相次いで証言することになる。写真は、それを伝えた米有力紙の一面だ。

マレンバーグ氏の後ろには、遺影を手にした多くの遺族。この日(29日)は、ちょうど1年前、インドネシアでの事故が起きた日にあたるが、それにしても、証言席との「距離」が近い。これを「演出」とは思いたくないが、強烈な印象を与え、議員の口調も自然と強まっていく。

今回のような議会でのやり取りを、英語では「Grill」と表現することがある。

「マレンバーグ氏はグリルされた」
言い得て妙である。(ちょうど同じ時期に行われた、フェイスブックのザッカーバーグCEOの時も「Grill」を使っていた)

10月の事故直後に、日本円で16億円というボーナスを受け取っていたことも、まさに「火に油を注いだ」のは想像に難くない(ことしのボーナスは受け取りを辞退した)。私はニューヨークにいて、インターネットでこの証言を見ていた。

マレンバーグCEOは、なるべく表情を変えずに淡々と答弁することに徹しているように見えた。上院で2時間半、下院は4時間を超えた。

実は、議会証言直前の10月25日の金曜日。アメリカのメディアは一斉に、「ボーイングがMCASのシステムの不備を2016年11月の時点で把握していたのに、航空当局に報告していなかった」と報じていた。日本でもよくあるが、“はかった”ようなタイミングである。

16年の11月に、ボーイングのチーフ・テクニカル・パイロットが同僚に宛てたメールで、「(MCASは)言うことをきいてくれない。でも、(航空当局に)ちゃんと報告しなかったよ」と漏らしていたというのだ。

議員たちの注目も、当然、ここに集まる。

(議員)「事前に知っていたのか?」

マレンバーグ氏「ことし初めには、(メールを含む)多くの書類の存在を認識していたが、その内容を知ったのは、ここ数週間のことです」

(議員)「CEOを辞めるべきだ」

マレンバーグ氏「そういうつもりはありません」

「議会の中だけ」な感じ

ちょっと脇道にそれるが、証言の様子を見ながら、ふと思い出したのが、大規模リコールをめぐる、2010年2月のトヨタ自動車の豊田章男社長の議会証言だ。

アクセルの急加速による死亡事故や重傷事故をきっかけに、2009年暮れから“トヨタ・バッシング”が全米で起き、大規模リコールにも発展。翌年2月には豊田社長が議会の公聴会で証言することになる。当時、私はロンドン支局特派員だったのだが、この問題にはちょっとした因縁もあって(字数もあるのでは詳細は省くが)よく覚えている。

現在もニューヨークで働くNHKのスタッフに聞いてみると、「あの時は、ほぼすべてのTVが中継していた。その後の豊田社長の工場訪問まで中継カメラが追っかけていたし、連日、『これでもか』という報道ぶりだった」という。

相次いで(集団)訴訟も起こされ、「アクセルの不具合が事故原因」と断定されなかったのに、訴訟の長期化を避ける必要もあって、巨額の和解金を支払う例もあった。売り上げや、ブランドイメージへの打撃も、半端ではなかったはずだ。

と、顔を上げて、TVを見てみた。ボーイングの議会証言を中継しているのは、経済ニュース専門チャンネルのみ。かなり厳しい口調で問い詰める議員もいたが、「議会の中だけ」な感じ。

私は、トヨタの時との「圧倒的なギャップ」を感じるとともに、「ボーイングはアメリカの基幹産業」ということも頭に浮かんだりした。

“もん絶”は、いつまで

ヨーロッパのエアバスと覇権争いをするボーイングには、世界で15万人の従業員がいる。謝罪と後悔の念を口にしたマレンバーグCEOは、それでも「737MAXの年内運航再開」を目指すと言う。

そして11月11日には、「来年1月には運航再開できるだろう」と発表した。航空当局との調整も進み、議会証言という“手続き”も終えた、ということだろうか。私は、まだ、“もん絶”は続くと見ているが。

幸い、737MAXは日本では飛んでいない。ただ、売り上げ10兆円超の「巨艦企業」の経営は、すそ野も広く、影響は大きい。

車と違い、搭乗する航空機は「ほぼ選べない」からこそ、内外を納得させられるような対応をどう進めていくのか、注目していきたいと思う。

手続きは進んでいなかった!?

と、注目を続けていたら、今月11日、航空部門の規制安全当局のトップ(FAA=アメリカ連邦航空局)が、議会でこう証言するではないか。

「737MAXの運航再開時期は決まっていない」

それに呼応して、16日にボーイングは「737MAXの生産を1月から停止する」と発表。すでに納入を控えた機体はおよそ400機に及ぶ。これは「抱えた在庫」だ。

それも、特別、大きい在庫…。ボーイングが見込んでいた来年早々の商業運航再開は、水泡に帰した。
ことしの業績も、まだ見通せないままだ。

このまま、運航再開許可を待てるのか。いや、従業員の雇用はどうなるのか。2018年にたたき出した最高益からの“転落”は何を意味するのか。「アメリカの主力産業」は、どう経営を立て直すのか。

多くの尊い命を失った代償は、あまりにも大きい。「もん絶」は続くだろうし、それは、ビジネスライクな話にとどまるはずもない。

アメリカ総局記者
野口修司
平成4年入局
政治部、経済部、
ロンドン支局などをへて現職

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December 17, 2019 at 11:04AM
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