相鉄・JR直通線の開業日、直通1番列車に出発合図する海老名駅長と相鉄キャラクター「そうにゃん」(撮影:大澤誠)
ついに、この日がやってきた。
これまで首都圏の大手私鉄の中で唯一、東京都心に乗り入れていなかった相模鉄道(相鉄)。11月30日、同線とJR線をつなぐ「相鉄・JR直通線」が開業し、相鉄にとって「悲願」だった都心への直通運転が始まった。
JR線直通の1番列車は、海老名駅(神奈川県海老名市)5時43分発の特急新宿行き。出発式で、相鉄の千原広司社長は「直通線の開業により、都心までのアクセスが格段に向上する。沿線の皆様の生活が変わり、地域社会の発展につながるものと確信している」とあいさつし、直通線がもたらす将来に期待を込めた。
記念すべき1番列車は、相鉄がJR直通線用として導入した新型車両「12000系」。定刻の5時43分、海老名駅長と相鉄キャラクター「そうにゃん」による出発進行の合図とともに、列車はネイビーブルーの車体を輝かせながら一路新宿へと向かった。
1番列車にはファンの列
厳しい冷え込みとなった開業日の早朝。だが、相鉄線の海老名駅前には、駅のシャッターが開く前から1番列車に乗ろうという鉄道ファンらが列をなした。中には「このために大阪から来た」という人も。ホーム上は、さながらラッシュ時のような賑わいを見せた。
海老名駅のホーム上で開かれた相鉄・JR直通線の開業記念出発式(撮影:大澤誠)
近隣の綾瀬市に住む「相鉄大好き」という小学3年生の男の子は「この日をすごく楽しみにしていた」と笑顔。一緒に来ていた沿線在住の祖母も、都心まで乗り換えなしの直通線開業を喜ぶ。「今までは新宿に行くなら海老名か大和に出て小田急に乗り換えだったけど、階段の上り下りがあるから。(乗り換えよりもやや高い)料金より『階段なし』でしょ」。
一方、男の子の父親は「新宿直通は便利だと思いますね」と言いつつも、「僕は横浜経由で川崎まで行くので、これから横浜方面が不便にならないかちょっと不安ですね」。直通運転によって他線の遅れが相鉄線に波及するのを懸念する声もあった。沿線利用者の受け止めはさまざまだ。
今回新たに開業した相鉄・JR直通線は、相鉄本線の西谷駅(横浜市保土ヶ谷区)から分岐し、新設の「羽沢横浜国大」駅(同市神奈川区)までを結ぶ約2.7kmの路線。都心直通列車はこの線を通ってJR線に乗り入れ、武蔵小杉や渋谷などを経て新宿へ向かう。JR側は埼京線の列車が乗り入れ、一部の列車は埼玉県の大宮や川越まで直通する。
海老名―新宿間の所要時間は最速で58分。途中の二俣川―新宿間は44分で、従来の横浜乗り換えより10分程度短縮される。
開業初日の直通列車は、大勢の「初乗り客」で休日の日中とは思えないほどの混雑ぶり。新駅の羽沢横浜国大駅は、駅前で開かれた開業記念イベントの見物客や開業記念の切符を買い求める人の行列などでごった返した。
新駅周辺の開発はこれから
ただ、駅付近はまだ工事中の様相で、訪れた人の中には「周りに何もないじゃん」との声も。駅舎の横には空間があるが、横浜市都市整備局都市交通課によると、バスやタクシーなどが乗り入れる駅前ロータリーのようなものは設けないという。
同局都心再生課によると、駅に隣接して広がる地区は現在、土地区画整理事業が進んでいる状況。地区計画では、歩行空間となる「コミュニティプロムナード」を地区内に整備し「周辺の住宅地や大学等から駅への主要な歩行者ネットワークを形成する」ほか、「地域の活性化と利便性向上に寄与する商業等の機能」や「都市の活力を向上させる居住機能などを誘導する」としており、今後地権者による開発が進むことになるだろう。
利便性向上で路線の魅力を高め「選ばれる沿線」に――。相鉄の都心直通プロジェクトは、1990年代半ばから続いた利用者減少への危機感が背景にあった。
相鉄線方面と東京都心を結ぶ路線の構想は1960年代からあったが、今回開業した相鉄・JR直通線など「神奈川東部方面線」の計画は2000年代に入ってから進展(2015年9月21日付記事「悲願の相鉄『都心乗り入れ』はいつ実現するか」)。2005年、既存の路線や施設などを有効活用して利便性の向上を図る「都市鉄道等利便増進法」が制定され、相鉄・JR直通線はその認定第1号となった。
当初は2015年4月の開業を目指していたが、のちに2018年度内に、さらにその後2019年度下期に変更。整備費用も当初よりふくらむなど、開業までには紆余曲折もあった。
開業日を11月30日と発表したのは今年の3月28日。発表のセレモニーで、相鉄の滝澤秀之社長(現・相鉄ホールディングス社長)は、開業がこの日に決まった理由について「2019年度下期ということだったが、JR中心に関係者をまとめていただき、期間短縮できた。2度ほど開業時期がずれた歴史を持っているので、1日でも早く開業したいと思っていた」と述べた。
相鉄の「新世紀」スタート
相鉄は2013年、都心直通を見据えて認知度やイメージの向上を図るべく「デザインブランドアッププロジェクト」をスタート。車両や駅などを統一したコンセプトのデザインでリニューアルし、イメージの刷新を図ってきた(2015年12月17日付記事「相鉄、ネイビーブルーで挑むメジャーへの道」)。
その象徴が、横浜の海をイメージしたという「ヨコハマネイビーブルー」の電車だ。車両のカラーリング変更を発表した2015年当時、相鉄の担当者は「都心に乗り入れていくということで一番注目されるのは車両。上質感があり、ブランド力の高い車両は走る広告塔になる」「沿線に住むというプライドをくすぐられるような電車にしたい」とその狙いを語った。直通線の開業で、いよいよその真価が問われることになる。
相鉄の都心直通プロジェクトは、今回のJR直通にとどまらない。2022年度下期には、羽沢横浜国大駅から新横浜駅を経て東急線の日吉駅までを結び、東急線と相互直通運転する「相鉄・東急直通線」も開業予定だ。最大で1時間当たり4本の相鉄・JR直通線に対し、東急直通線はラッシュ時に1時間当たり10〜14本程度を運行する計画で、都心直通の「本命」は東急直通線との見方もある。
2017年に創業100周年を迎えた相鉄。デザインブランドアッププロジェクトのコンセプトは「これまでの100年を礎に、これからの100年を創る」だという。神奈川県内から飛び出し、ついに都心へ。相鉄にとっての「新時代」が始まった。
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December 01, 2019 at 03:00AM
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