サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが11日、サウジ国内で株式を上場した。上場時の時価総額は約1兆8770億ドル(約200兆円)と、米アップル(約1.2兆ドル)を上回る世界最大の上場会社になった。米欧の同業他社と比べて収益力は高いが、サウジ政府が支配する企業統治に課題が残る。海外上場のメドも見えず、規模に見合うだけの成功を収めたとはいえない状況だ。
11日、サウジの国内証券取引所タダウルに新規株式公開(IPO)した。発行済み株式の1.5%を売り出した。初値は値幅制限の上限となる35.2リヤルを付け、売り出し価格(32リヤル)を10%上回った。アラムコのルマイヤン会長は公開に先立ち、「上場によってアラムコのガバナンスと透明性が高まる」と強調した。
調達額は256億ドルと、2014年の中国アリババ集団(250億ドル)を超えて過去最高になった。アラムコは主幹事の金融機関に追加で株式を引き受ける権利を与えており、最終的な調達額が300億ドル近くになる可能性もある。
サウジのジャドアーン財務相は10日、リヤドで日本経済新聞に「IPOへの応募が締め切り最終日に殺到し、予定の5倍に達した」と明かした。政府は優遇策などでサウジ市民に購入を呼びかける一方、有力財閥や王族にもIPOへの積極的な参加を命じたとみられる。サウジ国営企業や政府系ファンドなどが主な買い手だったもようだ。
売り出された株式はサウジ国内が対象で、共同幹事に参加したSMBC日興証券など、国内大手を通じても売買はできない。
上場前に公表された目論見書で見ると、アラムコの収益力は群を抜く。2018年12月期の売上高は3559億ドル(約39兆円)、純利益は1110億ドル。利益の規模は米エクソンモービルなど石油メジャー5社の合計を上回る。
目を引くのは巨額の配当だ。20年は750億ドルを下限としており、日本企業の配当総額の7割に相当する。19年6月末時点の自己資本比率は71%強と、負債に頼らない安定した経営が高水準の配当を可能にしている。
アラムコの石油生産コストは1バレルあたり2.8ドル。米シェール企業は技術の標準化などでコスト改善に取り組んだが、それでも生産コストは30ドル以上とみられる。
原油価格の低迷などもあり、米シェブロンは10日、石油・ガス関連の資産で1兆円超の減損損失を計上すると表明した。環境への配慮から長期の市場縮小が見込まれる石油産業で、高コストのライバルが振り落とされた後もアラムコは生き延びるのが確実だ。
問題はアラムコに投資しても、株主が経営に関与する余地がないことにある。アラムコ株の98.5%はなお政府が握る。政府を支配するのはサウド家であり、配当を受け取るのも実質的に政府になる。規模の大きさだけでは評価できない「異形のIPO」といわれるゆえんだ。
アラムコは国内上場の成功を海外上場につなげたい考えだが、企業統治の懸念などから海外勢は慎重姿勢が強い。東京証券取引所などは上場誘致をめざす考えだが、サウジ政府は目標にしていた20年の海外上場を実質的に取り下げた。
サウジは90年代に政府財政が悪化したとき、アラムコの信用力で銀行から資金を借り入れた。今後も政府がアラムコを犠牲にして、王室の利益を優先する懸念は払拭できていない。
こうした中で石油の安定調達を重視する中国がサウジへの接近を図る。長期的な関係を重視する観点から、アラムコ株の取得にも積極的とされる。アラムコの海外上場にメドがつかなければ、石油に頼らない産業の育成をめざすサウジが、資金を中国に頼る構図が強まる可能性もある。
(リヤド=岐部秀光、武田健太郎)
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December 11, 2019 at 02:48PM
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