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コラム:市場を揺さぶる2020年の「ビッグ3」は誰か=尾河眞樹氏 - ロイター (Reuters Japan)

[東京 23日] - 2020年の為替市場はどのような展開を見せるのか。そのカギを握る注目人物は誰か。市場の動きに大きな影響を与えると思われる「ビッグ3」を選び、来年の相場を展望してみたい。

ソニーフィナンシャルホールディングスの尾河眞樹は、2020年の為替市場で注目される人物人として、欧州中央銀行のラガルド総裁(写真左)と中国の習近平国家主席(右)を挙げる。写真は2018年11月、パプアニューギニアで撮影(2019年 ロイター/David Gray)

<ラガルド氏:ECB金融政策をどう総括するか>

まず、注目したい人物の第3位はラガルド第4代欧州中銀(ECB)総裁である。今年11月に女性では初のECB総裁に就任した。「女性初」は今回ばかりではない。前職の国際通貨基金(IMF)専務理事も「女性初」だったし、振り返れば07年5月に発足したフィヨン仏内閣の財務大臣に就任した時も、同氏は主要8カ国(G8)で女性初の財務大臣として注目された。

しかし、注目される理由は「女性初」ということよりも、その政治手腕にある。

ラガルド氏はセントラルバンカーとして中央銀行の政策を担った経験はなく、金融政策の専門家ではない。しかし、その政治手腕は市場参加者からの期待も大きく、ECB総裁就任直後からその片鱗をみせている。たとえば、ECB理事会メンバーの意見調整役としての活躍が挙げられよう。

今年9月にドラギ総裁(当時)の下で決定されたマイナス金利深掘りと量的緩和再開をめぐり、ECB理事会メンバーの間で意見が対立した。理事会内に深まる「溝」への懸念が広がる中、ラガルド氏は総裁としての初の理事会の後、ドイツのフランクフルト郊外の古城ホテルで「誤解を解く」ために非公式に理事会メンバーを集めた会合を開いたという。

「全会一致で意見がまとまることが理想的であるのは明らかだが、ECBは十分に強力な組織であり、意見の相違があったとしても、持ちこたえられる」と同氏は述べている。

今月12日、ラガルド氏は来年1月から「金融政策の総点検を開始する」との考えを表明した。年内には結論を出す方針だ。「2%付近、かつ2%未満」という現在の物価目標をどのように変更するのか、また、マイナス金利政策の副作用をどう総括するのか、注目が集まっている。

財政政策による景気の後押しについても、その必要性を主張しており、ドイツのベルリンを訪問した際には「ドイツは(欧州のために)必要ならば動く準備ができている国だ」と発言。ユーロ圏第1位の経済大国であるドイツが、その役割をしっかりと果たすことへの期待を強く示した。

メルケル政権は依然として財政出動に消極的だが、ラガルド氏の働きかけが奏功して実現すれば、足元で低迷しているユーロ圏経済の後押しになり、世界経済にとってもプラスとなる。この場合、グローバルにリスクオンの地合いに拍車がかかるのではないか。

<習近平氏:不透明感続く米中協議、香港情勢>

第2位は、中国の習近平第7代国家主席である。今年しばしば金融市場を揺さぶった米中通商協議については、両国は何とか第一段階の合意に達したものの、内容の詳細はまだ明らかになっておらず、依然として不透明感は残る。

米政府は12月15日に予定していた新たな対中関税の発動を中止したうえ、2500億ドルの中国製品には25%の税率適用を続ける一方で、約1200億ドルの中国製品に課している15%の関税率を半分の7.5%へと引き下げた。関税の引き下げ幅が中途半端にとどまったのも、まだ詳細が詰まっていないためだろう。

中国による米国の農産物購入にしても、米国側からは年間500億ドルと報じられたが、中国側は依然その規模についてコミットしていないようで、米中の発表内容も微妙に食い違いがある。

市場では今後、第二段階、第三段階と、米中協議の合意が進展していくにしたがって、さらなる段階的な関税引き下げに期待が出ているようだが、その可能性はあまり高くないかもしれない。足元の米株高に今後の関税引き下げが織り込まれているとすれば、中国の出方次第では失望につながり、再びリスクオフの局面が訪れる可能性もあるだろう。

また、香港情勢も懸念材料の1つだ。米国では既に香港人権法が成立している。中国政府は今のところ様子見の構えだが、もしも今後強硬に抗議活動を制圧するなどした場合には、「香港の自治権の毀損(きそん)が認められる」として、米国は中国当局者に対して米国内の資産を凍結するなどの制裁を科すかもしれない。リスクオンの時ほど、こうした材料には目を配っておく必要があるのではないだろうか。

なお、安倍政権は20年春、習近平国家主席を国賓として招待する予定だ。米中摩擦による景気悪化に苦しむ中国が日本に秋波を送っているようにも見える。相場へのダイレクトな影響は乏しいかもしれないが、日中関係の改善が日本経済の回復に寄与するのかは、見守りたいポイントだ。

<トランプ氏:大統領選後に円高リスクも>

注目の第1位は、やはり、トランプ第45代アメリカ合衆国大統領だろう。今年も様々な話題を提供したトランプ大統領は、おそらく来年も台風の目になるのではないか。

各国の中央銀行は、そろそろ金融緩和の限界に近づいているように見える。長引く超低金利の副作用も指摘されるなかで、これ以上の利下げは難しくなっているが、反面、利上げするほど景気は過熱していない。こうしたなか、金融政策は20年の市場のテーマにはなりにくいだろう。やはり、最大の相場のテーマは米大統領選となろう。

各種世論調査の平均を計算しているリアルクリアポリティクスによると、トランプ大統領の支持率と米株価は、特に18年以降、非常に高い相関性がみられた。しかし、米国の景気回復期待と低金利政策継続への期待により株価は一方的に上昇しているものの、今年11月以降は、トランプ大統領の支持率はさすがに44%付近で足踏みしており、両者の相関性に乖離(かいり)がみられる。

株高要因だけで、これ以上の支持率上昇を狙うのは難しそうだが、トランプ大統領は少なくとも、株価下落による支持率悪化は避けようとするだろう。

したがって、同大統領の中国叩きはいったん影を潜めると見ている。また、トランプ政権は選挙狙いで減税や財政政策などを打ち出し、支持率の安定を目指す公算が大きい。こうした景気刺激策が打ち出されれば、株価やドル円相場の押し上げ要因となろう。

ただ、仮にトランプ大統領が再選された場合には、2期目となるため、もはや支持率はさほど気にする必要がなくなる。このため大統領選後はトランプ政権の本質的な保護主義が台頭し、対中政策がより強硬になるリスクもあるだろう。

再び米中摩擦が激化するときには、貿易問題というよりは、IT覇権争いや、安全保障の問題に発展する可能性が高く、米中双方が譲歩し難い課題となる。これは大統領選後の円高リスクとして警戒しておきたい。

仮に民主党政権になったところで、状況は変わらない。香港人権法が成立した通り、中国に対する厳しい見方は米国議会の総意であり、トランプ大統領や共和党に限ったことではない。したがって、いずれにせよ大統領選後には米中関係の溝が再び深まるリスクは高いのではないか。

20年は総じて相場環境は良好で、リスクオンの円安地合い継続と見ている。ただ、ドル円については日米金利差に変化がない中で、さほど値幅は出ないと想定している。夏場にかけて115円程度まで円安が進行した後、大統領選後にはいったん円高方向に振れる可能性があると予想する。20年が世界経済にとって良い年となるよう祈りたい。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

尾河眞樹氏

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

(編集:北松克朗)

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